【お召し列車を運転するときの規則+経験談】鉄道会社の裏側を現役運転士がマニアック解説!
- お召し列車を運転するときの規則は?
- だれが運転するの?
会社の資料をあさっていたら、お召し列車に関する規則を見つけました。先輩から聞いた話などを参考に、お召し列車に関する知識を紹介します!
- お召し列車を運転するときの規則
- 先輩運転士の経験談
この記事を読むことで、お召し列車を運転するときに、鉄道会社がどんなことをしているかわかります。現役運転士が解説するので、マニアックな内容になってます!
公開できない内容もある
平社員に公開されている規則なので、たいした内容ではありませんが、会社の規則を公開したら情報漏洩になり処分されます。天皇に関するものであればなおさらです。
そのためこの記事では、世間で公開されている内容に、先輩からの経験談をプラスしてお伝えします。
会社の規則では、次のような最高敬語が使われています。この記事では、わかりやすくするために一般的な言葉で解説します。
- 御乗車
- 御到着
- 御先行
- 御先導
- 御通過
- 御乗用列車
皇太子殿下・皇太子妃の呼称は天皇で統一します。
お召し列車を運転するときの規則
天皇が鉄道を利用するとなれば、鉄道会社は大騒ぎです。車両や人員の手配を完璧に計画しなくてはいけません。
まずは、お召し列車についてかんたんに説明します。
お召し列車(御召し列車)とは
天皇が乗車する列車を最高敬語にすると、「天皇がお召される列車=お召し列車」になります。
天皇以外の皇族が乗る列車は御乗用列車といいます。
よく見るのは、JRの茶色のお召し列車ですね。
どういうものか知らなくても、近寄りがたい雰囲気が伝わってくる列車です。
ちなみに、茶色ではなく溜色(ためいろ)といい、皇室の象徴的な色になっています。漆(うるし)を塗り重ねる溜め塗り(ためぬり)が由来です。剣道の胴着も溜色です。
天皇はJRの在来線や新幹線に乗ることが多いですが、私鉄に乗ることもあります。
近鉄は伊勢神宮のお膝元なので、お召し列車の運転本数は私鉄でトップです!
東武鉄道、西武鉄道、秩父鉄道、ニューシャトル、つくばエクスプレス、わたらせ渓谷鉄道などもお召し列車を運転したことがあります。
お召し列車に乗車する乗務員、職員
お召し列車を担当する乗務員は、運転や放送がうまいだけで選ばれることはなく、役職のついた、信頼されているベテラン乗務員が選ばれます。
おそらく、乗務員やその家族に対して身辺調査があるはずです。乗務員は車両のプロフェッショナルでもあるので、やろうと思えばなんでもできてしまうのです。
そういったことを防止するためにも、運転席には複数の職員を乗車させます。運転士のほかには、運転士が所属する乗務区・所の上司や上長、運輸部のトップなどが乗車します。
客室には社長が乗車します。
鉄道会社のトップが乗車しないと、天皇に対して失礼になります。
ほかにも、車両故障などのトラブルに対応できるように、各部署のエキスパートが乗車しています。
お召し列車の運転は秒単位で指定される
通常の運行ダイヤも秒単位ですが、実際に運転するときはそこまで意識しません。
しかし、お召し列車を運転する場合は、警護や先の予定、他の列車との間隔もあるので、ズレなく運転しなくてはいけません。
- 〇時〇分〇秒に〇〇駅を通過する
- 〇時〇分〇秒に〇〇踏切を通過する
- ブレーキはここから、この強さで
- 加速は3ノッチで50km/hまで
(※ノッチはアクセルのこと)
運転士ひとりだけではすべての指示を覚えきれないので、複数の職員と確認しながら運転します。
最高の乗り心地で運転する
普段なら乗り心地より定時運転を優先することもありますが、お召し列車は別です。
とにかく揺れや衝動がないように、ノッチ・ブレーキの操作に気をつけます。
衝動を無くすため、回生ブレーキを切って運転する会社もあります。
お金をかけない会社や地方の路線では、架線電圧が不安定なので回生ブレーキではブレーキがガックンガックンすることが多い。
制輪子だけのブレーキにすれば、架線電圧の影響を受けずに安定したブレーキをかけることができる。
制輪子のブレーキは自転車のブレーキと同じ仕組み。ブレーキパッドを車輪に押し当てるだけの構造である。
ほかにも、曲線を最高速度で運転すると、遠心力や傾斜で乗り心地が悪くなってしまいます。80km/h制限の曲線であれば65km/hなど速度を落として運転したりします。
ポイント(分岐器)も同様に速度を下げて運転します。
直線も最高速度では走りません。何かあったときすぐに止まれるように、通常より速度を落として運転します。
レール、車輪を削って乗り心地を良くする
電車に乗っていると床下から「キーキー」と高い音が聞こえてくることがあります。あれは車輪とレールが削れている音です。
- 曲線やポイントで同じ場所だけ削れる
- 雨、雪、油で空転・滑走して削れる
車輪やレールが削れることを「フラットができる」という。なめらかだったものがフラット(平坦)になることが語源。
フラットができると「ダッダッダッダッダッ!」と振動や騒音が発生して乗り心地が悪くなる。
ちなみに、「ガタンゴトン」はレールの継ぎ目から聞こえるジョイント音である。
均等に削れることはないので、車輪やレールがいびつ(フラット)になり、乗り心地が悪くなってしまいます。
そこで、いびつな車輪やレールを削りなめらかにすることで、乗り心地を良くすることができます。
しかし、車輪もレールも削れる範囲は限られています。たくさん削るとそれだけ消耗が早くなり、交換の費用も増えてしまいます。
そのため、鉄道会社は車輪やレールを削ることを嫌がりますが、お召し列車のときは別です。会社の技術力を最大限に発揮して、最高の乗り心地を提供します。
良い運転をしても車両やレール設備がポンコツでは意味がありません。縁の下の力持ちに感謝です。
運転整理はお召し列車を優先
トラブルが発生したときは、お召し列車を優先に運転整理をします。
警護や先の予定もあるので仕方ないですね。
運転整理は事故や遅延が発生したときに、通常運転にもどすための運行指示のこと。
- 終点まで行かずに途中駅で折り返す
- 行き先や種別の変更
- 特急を先に通過させる
- 後続の列車に割り当て、など
停止位置の行き過ぎ防止
電車の停止位置を数cm単位で調整することは、それほどむずかしくありません。
しかし、停止位置を間違えることはしょっちゅうあります。
例えば、10両なのに15両の停止位置に止まってしまったり、特急の停止位置に止まってしまったりということがよくあります。
お召し列車の場合は、到着駅でゲートを用意したり、警護や参列者の配置の都合があるので、絶対に停止位置を間違えてはいけません。
通常の停止位置だけではなく、目印を持った職員をホームに立たせたりします。
お召し列車と並行して走ってはいけない
お召し列車と並走してはいけません。
失礼にあたるのと、警護が理由です。
お召し列車と並走すると、天皇と同じ身分の者がいることになってしまいます。天皇の視界をさえぎるのも問題です。
お召し列車を追い越すなんてもってのほかです。接近する列車に対しては「その駅で停止してください」などと輸送司令から指示があります。
お召し列車の上を走ってはいけない
十字に交差する線路などで、お召し列車が下の線路を走行しているとき、上の線路を走ってはいけません。
天皇より高い身分がいることになってしまいます。
お召し列車の正面に止めてはいけない
お召し列車が停止していて、後から他の列車が進入する場合、後から来た列車をお召し列車の正面に止めてはいけません。
天皇と同じ立場の者が後から来るということになってしまいます。
天皇が偉いからという考えではなく、国民の象徴である天皇はそれに応じた振る舞いが必要です。周囲も天皇を崇め奉らなければいけません。
跨線橋や踏切の監視
跨線橋(線路や駅の上にある橋)や踏切に監視員を配置します。
飛び込みや列車妨害を防止するためです。
同時進入進出の禁止
停止位置を行き過ぎたとき、衝突するおそれがあるときは、同時に進入進出させてはいけません。
車両の防犯改造
窓ガラスを防弾仕様に改造します。
JRはお召し列車専用の車両がありますが、私鉄には専用のお召し列車がありません。
普段運転している車両を防犯用に改造しなければいけません。
予備車両の用意
トラブルが発生した場合の予備車両を用意します。もちろん防犯改造した車両です。
お召し列車のすぐ後ろを予備車両が走行したり、途中駅に止めておくことで、すぐに車両交換をすることができます。
天皇との物理的距離
天皇と、参列者、報道陣、鉄道職員との物理的距離が決められています。
〇m以上近づいてはいけない、〇歩先を先導するなど細かく決まっています。
緊急時を除き、先導している者が天皇に振り向くことも禁止されています。天皇を見下す行為になってしまうからです。
まとめ
この記事では、お召し列車を運転する際の規則について解説しました。
機密事項もあるため、一般的に公開されている情報に経験談を加えた内容になっています。
お召し列車の運転は鉄道会社側にも大変なことがあります。
それでも、天皇が利用した鉄道会社となれば世間からの注目や、地域からの信頼が上がるし、鉄道会社の歴史にも刻まれます。
お召し列車が運転されるときは、鉄道会社の裏側にも注目していただければうれしいです!
ありがとうございました!